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フクザツでやさしい色

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フクザツでやさしい色

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樹木の皮や芯材、草の根や葉や花びら、果ては虫までを使ったりして染める天然染料の染色。そんな自然から染まり上がる色は“柔らかい色”、“優しい色”、“あたたかい色”など、どれも巷の原色とは趣を異にしたいわゆる中間色になるものばかりです。
それはなぜなのでしょうか。

煮出しイメージ私たちが植物をグツグツ煮込んで取り出す色。それは元々植物たちが生きていくために、そして子孫を残していくために必要に応じて植物自身が自分で作り出した様々な物質です。彼ら植物たちは決して人間に染めてもらうためにそんな物質を作っている訳では無いのですが、そういった植物の色水で布地を染め上げられることに遥か昔の先人たちがたまたま気付いたんですね。そんな便利で美しいものがあることを知って以来、私たち人間は植物を収穫しては色々な方法で植物から色素をいただいて染めている・・・。それが天然染料の染色です。

植物染料色の素になる『色素(しきそ)』は、一つの植物の中にたくさんの種類があります。それは、彼ら植物が自分自身の為に数え切れない色々な物質を作っているからなのですが、そんな植物からはいろんな色が出てきます。
そしていろんな色素がたくさん混ざって出来上がる植物による染色はとても複雑な色になります。小さい頃夕日の色をクレヨンで描こうとして、いろんな色を重ねて描くうちにどんどん灰色に近い不思議な色になっていった、なんていう記憶はないですか?
色は混ざるとどんどん複雑でよくわからない色になっていきますよね。あまり混ぜすぎるとくすんで灰色になってしまいますが、程よい混ざり具合だととても柔らかい色調を出してくれることがあります。

染料植物から戴いた色の混ざり具合が私たちにとって丁度心地よい色目、そんな色を手染メ屋では、フクザツでやさしいもわぁっとした色、と言っています。これは私たちがうまいこと考えながら絵の具を混ぜるように作っているわけではありません。植物からいただいた色素たちがたまたまうまいこと混ざっている状態のものを人間が選ぶだけなんです。いろんな植物を使って、煮出す量を変えたり、染める温度を工夫したり、植物を2つ使ってみたりして。
そうやっていろいろ試して、私たちが「あ、これいい」と思った色をお店に並べています。それが手染メ屋の『フクザツでやさしい色』です。

植物たちに手を合わせて頂戴できるフクザツでやさしい色。その素晴しい色たちのいくつかをここでご紹介いたします。




黄蘗色
黄蘗色(きはだいろ)
柘榴(ざくろ)の実の皮を乾燥したものを煮出して染める色です。黄蘗(きはだ、おうばく)は樹皮が黄色い染料になる木でその樹皮の色にちなんだ色名なのですが、黄蘗は木綿と相性が悪くとても染まり難いので手染メ屋では柘榴を使っています。決して冷たさがない、でも能天気に明るすぎもしない、独特の深みがあるあたたかい黄色。ありそうでなかなかお目にかかることのできない黄だと思います。媒染にはミョウバンを使用します。

灰桜色
灰桜色(はいざくらいろ)
ヤシの実の種、檳榔子(びんろうじ)を煮出して染める色です。江戸や室町の時代には黒染めに使われていた輸入染料ですが、明るい色目に染めると何とも言えないヌッタリとしたベージュピンクに染まりあがるので、手染メ屋ではミョウバンを使ってこの色に仕上げています。世の全ての女性に分け隔てなく似合う希少な色目だと思っています。

丹色
丹色(にいろ)
柘榴(ざくろ)で黄に染めた後に印度茜(いんどあかね)で赤を染め入れてオレンジ系に仕上げる色です。絵の具や色鉛筆と同じく黄と赤の足し算で作ることのできる色目ですが、元の黄も赤もそれぞれくすんだ独特の色目なので、仕上がるこの丹色も明るすぎないフクザツなオレンジに仕上がっていると思います。丹とは赤土のことで、飛鳥の時代から使われた色名です。媒染にはミョウバンを使用します。

鴇色
鴇色(ときいろ)
印度茜(いんどあかね)の根を煮出して染める色です。“あかね”の語音通り、とても赤い根っこで見るからに良く染まりそうな染料です。絹を染めると彩りの強い赤系統に、木綿を染めるとパステル調の赤〜ピンク系統の色に染まります。トキの風切羽が赤味を帯びている所以の色名で、きびし過ぎない印度茜の赤に相応し良い名前と思います。媒染にはミョウバンを使用します。

蒲萄色
蒲萄色(えびぞめいろ)
五倍子(ごばいし)で青グレーに染めた後に印度茜(いんどあかね)で赤を入れて仕上げるくすんだ赤紫系の色です。丹色と同じく色の足し算で作る色で、古代の日本はこうやって2種類から3種類の染料を使っては色を足しこんで複雑な色を作り出していました。この蒲萄も飛鳥時代から大臣以上に使われた高貴な色です。この大好きなくすみ具合を出すため五倍子の染め濃度に少々注意が必要な染め色です。媒染には木酢酸鉄を使います。

藤鼠色
藤鼠色(ふじねずいろ)
五倍子(ごばいし)で染める色です。五倍子とはウルシ科のヌルデに付く虫こぶで、江戸時代には染料のほかにお歯黒にも利用された染料植物です。木酢酸鉄で媒染することでこの藤鼠色のようなくすんだ青紫や青グレーが染まるため、江戸時代には紫染めの代替品として庶民の間で流行った染料でした。青紫色のはいり具合がなんとも渋い江戸の庶民の代表的な色彩の一つです。

鈍色
鈍色(にびいろ)
矢車附子(やしゃぶし)というハンノキ科の低木の実を煮出して染める色です。最もニュートラルな日本のグレーで、古代には喪に服する色目としても使われていました。身の回りにある普通のグレーよりもずっと色が混雑した感じなのですが、決して何かの色が見えるわけではなく、やはりグレー。不思議な色目です。特にトップスの色としてはとても重宝しています。媒染には木酢酸鉄を使います。

老竹色
老竹色(おいたけいろ)
黄蘗色と同様に柘榴の実の皮を使うのですが、媒染剤に木酢酸鉄を使用することで色目はくすんだ宇治茶のような色目になります。このように、媒染剤を変えることで天然染料は全く違った色に染め上げることができます。暗すぎず明るすぎず、ほのかな緑に彩られたこの色目は年齢や男女を問わず使いやすい配色だと思います。

代赭色
代赭色(たいしゃいろ)
柿渋(かきしぶ)と日光で染まる茶色い色です。中国の「代」という地方からとれる「赭」(良質な赤茶色のこと、転じてベンガラ)から、代赭はそのまま濃い茶色の色名となったようです。渋柿のジュースを1年以上かけて発酵させた柿渋に浸けては日光に当てる、という作業を3週間から2ヶ月ほど続けて出来上がる色目で、独特のハリ感と渋みが出ます。色だけでなく生地の風合いにも特徴が出て、他の染料では得られない仕上がりです。

憲法色
憲法色(けんぽういろ)
柿渋と日光で代赭色に染めた後に木酢酸鉄で媒染して染め上げる色です。代赭色と同様こちらも独特のハリ感と渋みを持った仕上がりになる色目です。本来の染め色自体は黒に近いのですが、アタリ感や擦れが生地に出るため、黒には見えません。江戸のはじめの剣客「吉岡拳法」からついた色名です。

縹色
縹色(はなだいろ)
印度藍(いんどあい)から採れた沈殿藍を使用した藍染めによる色目です。当工房では技術的そして設備的な問題から炭酸カリウムとハイドロサルファイトを使用したいわゆる“化学建て”による藍染めをしています。藍染めの液は面倒を見ながらずっと作り置きしておき、必要に応じて染色に使います。手染メ屋では比較的濃い目の青色に仕上がるように心がけています。

鉄紺色
鉄紺色(てつこんいろ)
藍染めで縹色に染め上げた後にログウッドで更に濃く染めて仕上げた色です。手染メ屋では一番濃い色目で、濃紺より青味が少ないと思います。ログウッドは中南米原産の染色用木材で、日本には江戸末期から明治にかけて入ってきました。着物の世界で「三度黒」と言われる黒染めに使われた染料です。これは「三度も染める」のではなく、「たった三度の染めで黒くなる」という意味です。真っ黒に染めるのがそれまでいかに難しかったか、というのが偲ばれる色名です。媒染は木酢酸鉄を使います。