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tezomeya日記

公開実験教室その6の報告!

冷え込みがとても厳しかった先週末の土曜日、
工房では今年最後のワークショップを行いました。

今回のお題目は
「消毒用アルコールで染めてみよう!」
です。

ドラッグストアで売っている、消毒用エタノールを使って
植物から色を取り出して染色して、普通に水で染色した
ものとどのくらい染め色が違うかをみてみよう、
という実験です。

植物に含まれている色素の中には、実は水には
溶けてくれないないものも結構あるんですよ。

普通の水での焚きだしだと、
この水に溶けない色が出にくくて
イマイチ濃く染まってくれない、
なんてことがたまにあります。

で、水に溶けないものの中には油に
溶けるものがあるんですね。

水に溶けない代わりに油には溶けてくれる。
そういうへそ曲がりな色素があるんです。

この油に溶けてくれる性質を
「脂溶性」とか「親油性」とか言うんですけど、
そういう脂溶性の色素を植物から取り出してみると
以外に濃く染まるかも、ということです。

そこで登場するのがエタノール。

エタノールというのは面白い性質がありまして、
なんと水とも油ともお友達になれる液体なんですよ。

よく、「水と油」なんていいますけど、
エタノールは、この仲を取り持ってくれるものなんです!

エタノールには脂溶性のものも溶けてくれるので、
これに植物をつけると、水だけでは出てこなかったものが
出てきたりするんです。

そこで、水で出したいつもの液と、
消毒用エタノールで出した液で
染め比べてみよう、という内容で
実験してみました。

今回の実験で使用したのは

・クチナシ
・アカネ
・紫根

の3つの染料を使いました。

実は、この3つの植物に含まれている
色素はどれも水には溶けにくいものばかり。

クチナシにはルテイン
アカネにはプルプリンやアリザリン
紫根にはシコニン

というものが入っています。
これらは脂溶性のものだ、
ということが、先人の研究で
わかっているんですよね。

この脂溶性の色素たちが、
はたして理論通りエタノールに
たくさん溶けてくれて濃く染まるのか!?

ということで、皆さんにシルクを染めてもらいました。

こんな感じでちまちま火にかけていつも通り
媒染と染色の繰り返し。

作業の合間にはアルコールの話なんかも
織り交ぜながら。
はい。お酒の話です、早い話。

で、出来上がったのが、この写真。

画像ではわかりにくいんですが、

紫根は

エタノール染め >> 水染め

でした。

エタノールで出した染液のほうが
液の色は薄いのに濃く鮮やかに
染まりました。

で、クチナシは、
すこぉしだけエタノールが濃かったかな。
濃い、というよりも、すこし山吹にふれた
厚みのある色目だった、という感じでしょうか。

アカネは、
水出しの方がすこし濃かったです。
エタノール出しは少しだけオレンジ系に
振れていて、水出しはピンクっぽかったのですが
色は水出しの方がほんのすこしだけ強かったです。

・・・と、染料によって結果はまちまち。
その理由は・・・、

わかりません(笑)。

そもそも染色なんて、分子レベルでは実際にどんなことが
起こってるかと言うことは詳しくはわかってないんですよ。

典型的な動き、

例えばイオン結合や水素結合、そして
ファンデールワールス分子間力で色素分子と
繊維分子はくっついているらしいとか、

金属イオンが色素や繊維とくっつくのは
非共有電子対による配位結合が重要な役割を
しているらしいとか、

そんな理論的なところはわかっているらしいんだけど
他にもいろんな事象が複雑に絡み合って同時に
起こってるらしくて、染色されている状態を
正確に化学的表現で説明することは、多分
無理なんだろう、と。

だから、
「この色素は脂溶性だからアルコールでよく染色できるのか?」
なんてことも、実際にやってみないとわからないんですよね。

で、やってみると、その予想が今回みたいに外れることも
往々にしてあるわけです。

で、予想と外れた、その『結果』が、正解なわけです。
そこに、特に理由は必要ないのかな、と。

科学とは、この理由なりメカニズムなりを
とても大事にする学問です。
メカニズムが解明されると
常に応用ができるようになる。
とても便利です。

でも、自然界の現象ってのは、
そんな単純なメカニズムじゃない。
理想的な状態での理論的解決方法の
知識はあった方がいいと思うけど、
それだけじゃ、この地球上で
起こっているあまたの事柄は解明されないです。

だって、これだけ有名な地球規模の温暖化の原因
でさえ、それが二酸化炭素かどうかってことの
ちゃんとした理論的説明は存在しない
じゃないですか。

だから、すくなくとも僕たち実践者には
原因と結果の間にある“メカニズム”の
ことは、実はそれほど重要じゃない。

因果関係さえ、ちゃんと押さえてられれば
その間の理由は、まぁ、目をつぶっても
実はあまり大勢に影響はないかな、と。

なんか、この植物おもろい色が出そう。

その植物使って染色してみた。

良い色が出た!

バンザーイ!

これだけでいいんですよね。
で、大事なのはこの成功体験なり、
もし失敗したときはその失敗事例を
覚えておくこと。
必要なら記録しておくこと。

この事例の蓄積が、データですよね。

そして、データが集まると、
いろんな傾向が理解できたり
推し量ったりすることができるようになる。

で、そこから新しいことを類推・予想する。

あの植物でこんな色だったんだったら、
この似たやつだったらやっぱりこんな色になるんじゃないか?
とか、

この植物は煮て出すと色が染められないから
あの植物と同じようにぬるま湯で色を出さないと
いけないのかも、とか。

昔の人たちはそうやって
いろんなトライアンドエラー
を繰り返し繰り返し行って
天然染料の理論体系を培ってきたんですよね

で、そうやってデータ蓄積ができると
「なぜ?」
とか
「どうして?」
の答えが見えてきたりして。

僕らも普段から

「なんでそうなるの?」
「こうなるってのは、どういうこと!?」
なんて、気になって気になってしょうがないこと
たくさんありますよね。

そのためには、とにかくやってみること。
トライしてエラーしてトライしてエラーして
トライして・・・。

僕の仕事なら、染めて染めて染めまくること。
で、それをいちいち記録しておくこと。

もう、この作業の繰り返しに尽きるんだと思う。

この公開実験講座は、ボクのトライアンドエラーの
一部でございます。

だから、来年もやりますよぉ。

どんどん染めて、どんどん失敗しますよぉ。

また来年もお付き合いのほど
何卒宜しくお願い致しますですm(__)m。

さて、来年の染めワークショップ第一弾は
1月30日(土)に予定しております。
内容は、伝統色のワークショップで
黄櫨染を染める予定。
ハゼノキとスオウを使って天皇だけが
許された禁色を染めてみます。

詳細はまたサイトで紹介いたします。
乞うご期待!

店主@手染メ屋
https://www.tezomeya.com/

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